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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)208号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し公調委平成七年(フ)第五号大阪府土石採取不許可処分取消裁定申請事件につき平成九年六月二〇日付けでした裁定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二事案の概要

本件は、採石業者である原告が大阪府知事に対し国定公園の特別地域内における土石採取の許可申請をしたが不許可処分を受けたため、被告に対し右処分の取消しを求めて裁定を申請したところ、被告がこれを棄却する裁定をしたので、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実及び関係通達

1  原告は、大阪府和泉市内で採石業を営むところ、平成七年四月一九日、大阪府知事(以下「知事」という。)に対し、金剛生駒国定公園(以下「本件公園」という。)の特別地域内である別紙物件目録記載の土地(以下「本件申請区域」という。)において土石の採取を行うため、自然公園法一七条三項の規定に基づく土石採取の許可申請(以下「本件許可申請」という。)をしたところ、知事は、同年七月二八日付けで本件申請につき不許可処分(以下「本件処分」という。)をした。

そこで、原告は、同年八月二一日、被告に対し本件処分を取り消す旨の裁定を申請した(公調委平成七年(フ)第五号大阪府土石採取不許可処分取消裁定申請事件、以下「本件裁定申請」という。)。

被告は、原告に対し、平成九年六月二〇日付けで本件裁定申請を棄却する旨の裁定(以下「本件裁定」という。)をした。

2  厚生省大臣官房国立公園部管理課長は、昭和二七年一〇月二三日付けで「国立公園内特別地域内の行為許可に関する留意事項について」と題する通達(昭和二七年一〇月二三日付け国管発第七三号同課長通知、以下「留意事項」という)を発した。右通達の関係部分の定めは左記のとおりである。

「三 許可に際し具体的に検討すべき事項

(三) 行為の方法

2 鉱物の試掘又は土石の採掘について

イ 鉱業権又は採石権設定条件であること

ロ 掘さくの方法としてはなるべく坑道掘によること」

3  環境庁自然保護局長は、「国立公園内(普通地域を除く。)における各種行為に関する審査指針について」と題する通達(昭和四九年一一月二〇日付け環自企第五七〇号、以下「審査指針」という。)を発し、次いで、「国立公園内(普通地域を除く。)における各種行為に関する審査指針の細部の解釈及び運用の方法について」と題する通達(昭和五〇年三月一九日付け環自企第一四八号、以下「細部の解釈及び運用方法」という。)を発し、これらはいずれも昭和五〇年四月一日から施行された。

(一) 審査指針の第3IIaの内容は、次のとおりである。

「第3 鉱物の採取又は土石の採取(法第一七条第三項第三号、第一八条第三項第一号、第一八条の二第三項第一号)

II 露天掘によるもの

許可しないものとする。ただし、特別保護地区及び海中公園地区以外の地域におけるものであってIの一のただし書に該当するもの又は次のaからdの各号の一に該当するものにあってはこの限りでない。

a 露天掘による掘採又は採取が、自然公園法の許可を得て現に行われている土地に隣接して行われるものであって、以下に定める要件に該当するもの。

ア 自然的、社会経済的諸条件にかんがみ、掘採又は採取の期間及び規模が必要最小限と認められるものであること。

イ Iの二に掲げる地域(第一種特別地域及びこれに準ずる取扱いが現になされ又はなされることが必要であると認められる地域)以外の地域で行われるものであること。

ウ 掘採又は採取の方法が著しい自然の改変を伴うものでないこと。

エ 掘採又は採取終了後の跡地が整理される計画になっているものであること。」

(二) 細部の解釈及び運用方法の審査指針第3IIaに関する部分は、次のとおりである。

「審査指針においては、地形そのものを改変させてしまう露天掘による土石の採取は原則として許可されないこととなっている。

しかし、現に生業として継続されてきた土石の採取行為が即許可されなくなってしまうのは当該行為者の生活をおびやかすことになり適当でない。

したがって、第3・II・アに定める期間・規模は、行為者等の生活を守るために必要な範囲に限定されるべきである。また、この場合できるだけ近い将来に終掘させるという方法で指導するのが適当である。」

二  争点

1  本件裁定は憲法その他の法令に違反するかどうか。

2  本件裁定は、実質的な証拠がなく、その基礎となった事実を誤認したものかどうか。

3  原告が本訴訟において申し出た証拠は、被告における審理に際して提出することができず、かつ、これを提出できなかったことについて過失がなかったといいうるか。また、これを新たな証拠として取り調べる必要があるか。

三  当事者の主張及び原告の申し出た証拠

1  争点1について

(原告の主張)

(一) 審査指針第3IIa及びこれに関する細部の解釈及び運用方法の定めは、土石の採取について、露天掘によるものと露天掘以外のものを区分し、前者を原則として許可しないものと定めているが、これは憲法二九条一項で保障された原告の財産権を侵害するものであり、また、採石法にも違反するものであって、無効である。すなわち、

(1) 土石を商品化した生産物の販売単価に照らすと、採石業者が坑内掘をすれば、その生産物の販売単価によっては賄えないような費用を要することは明らかであって、採石業者は、露天掘でなければ事業の収支を保つことはできない。そこで、採石業者に露天掘を禁止して坑内掘を要求することは、その営業の廃止を命ずることを意味する。原告は本件土地につき多額の対価を支払ってその採石権を取得し、そのほか多額の資金を投入して本件土地以外の多数の土地を買収したが、審査指針により露天掘を禁止されれば、右採石権及び所有権は全く無価値になる。

しかも、露天掘を原則として不許可とすべき合理的理由は全くない。自然公園法一七条三項が同項所定の各種行為は都道府県知事の許可を受けなければならないとした趣旨は、国立公園又は国定公園の風致を維持するためであり、自然公園法がすぐれた自然の風景地を保護することを目的とすることに由来する。しかし、日本は地震の多発地域であると同時に火山列島であるため今後もいかなる自然の変化が生ずるか予測できないから、国立公園等の風致を維持するというのは、自然公園の美観を維持するということであって、生きた自然の外面的形状をすべて現状で保存しようとするものでないことは明らかである。また、旧国立公園法に基づく管理は、国立公園一か所につき管理員は二、三名にすぎなかったから、その規制は専ら国立公園の美醜だけを問題とし、自然自体の現状を維持することを目的とした規制まではなされていなかったと考えられるところ、旧国立公園法に替わる自然公園法の行政権の規制に関する法規は旧国立公園法の基本構成をそのまま引き継いでおり、自然公園法案の審議過程においても、鉱物又は土石を採取するための露天掘は風致に重大な支障を及ぼすから原則として不許可とすべきであるとの議論は全くなされていない。したがって、自然公園法による規制も、自然自体の現状を維持することまでも目的としていない。

採石権は用益物権であり、登記をして第三者にも対抗できる権利であるのに、これが単に自然公園法が定めた美観の維持という人間の主観的要素により大きく左右され、極めて抽象的で公益性がさほど高くないものによってその行使が妨げられるのは、何ら合理的理由がない。

(2) 国定公園の事業を執行するのは都道府県知事であるが、都道府県知事は通常当該国定公園内の土地について何ら私法上の権利を有していないから、都道府県知事による国定公園における公園事業の執行は、戦前からの国立公園の場合と異なり、国定公園内の私人の所有権その他の財産権を侵害するおそれが大きい。そこで、自然公園法は憲法が保障する基本的人権を擁護するという精神に則って制定されており、同法三条は、憲法二九条一項に定める財産権の不可侵の規定を受けて定められたものであり、本件裁定がいうように財産権の尊重と他の公益との調整の必要性をうたったり、国民の財産権を制限することを承認した規定ではない。また、自然環境保全法三条も「自然環境の保全に当たっては、関係者の所有権その他の財産権を尊重するとともに、国土の保全その他の公益との調整に留意しなければならない。」と定めている。したがって、右のような自然公園法三条の規定の趣旨に照らすと、採石業者が国定公園内で行う露天掘の採石行為を原則的に禁止する審査指針及び細部の解釈及び運用方法の定めは、同条の規定に違反するものであって、無効である。

(二) 露天掘による採掘又は採取を原則として許可しない旨の審査指針の規定は、採石法に基づいて採石業者登録を受けた採石業者の国定公園内における営業活動の自由を奪うものであるから、憲法に違反するばかりでなく、採石法にも違反する。

(三) 審査指針は、採石業者に対する関係では、法の下の平等の原則を定める憲法一四条に違反する。

審査指針第3IIa並びに細部の解釈及び運用方法58は、鉱業権の対象となる鉱物が地表近くに存在する場合等であって、露天掘以外の方法で掘採することが露天掘で掘採する方法に比して技術的、経済的に著しく不合理である場合には、鉱業権を有する鉱山業者が露天掘で鉱石を採取することを許容している。そうすると、採石業者が採取する土石は、鉱山業者が露天掘を許容される場合以上にすべて地表近くに存在することが明白であるから、採石業者にも当然露天掘を原則的に許容すべきである。審査指針が採石業者に対しては原則として露天掘を禁止していることは、採石業者を鉱山業者に比較して不当に差別するものであり、法の下の平等の原則を定めた憲法一四条に違反し、自然公園法適用上の平等と公正を害するものである。

法律が石灰石を鉱物と規定し、花崗岩を岩石と規定した理由は、我が国における両者を対象とする産業の発達に著しい差異があったという近代鉱工業の発達の経済的歴史的事情だけである。石灰石は生物の遺体が堆積してできた生物岩であり、花崗岩は岩盤のマグマが冷却、固結してできた岩石であるから、鉱山法の規定のように石灰石を鉱物とみることが正しいとすると、学問的には花崗岩も鉱物とみるべきである。それ故、鉱物法や採石法の立場を離れ、自然公園法の立場からみると、石灰石を鉱物、花崗岩を土石とみて区別することは全く不合理であり、その採掘方法について、一方に露天掘を許容し、他方について露天掘を不許可とする合理的理由は何ら存しない。審査指針以前の留意事項には露天掘を原則として禁止する旨の定めはなかった。

(四) 審査指針第3IIaが仮に有効であるとすれば、本件裁定には法律不遡及の原則に反した違法がある。

自然公園法附則7は、国立公園法もしくはこれに基づく命令の規定によって許可その他の処分もしくは届出その他の手続を要しなかった行為で自然公園法もしくはこれに基づく命令の規定によって新たに許可その他の処分もしくは届出その他の手続を要することになったもの又は国立公園法もしくはこれに基づく命令の規定によって届出をもって足りた行為で自然公園法もしくはこれに基づく命令の規定によって許可その他の処分を要することとなったもののうち、自然公園法の施行の際現に着手しているものについては、自然公園法もしくはこれに基づく命令の規定による処分もしくは手続を要せず、又は従前の例による届出をもって足りると定め、行政法規不遡及の原則を明白に規定している。すなわち、自然公園法の施行の際「現に着手しているもの」は何ら同法もしくはこれに基づく命令の規定による処分その他の手続をしないものとされている。

審査指針並びに細部の解釈及び運用方法は、昭和五〇年四月一日から施行されたところ、経過措置として、同年三月三一日以前に受理された申請については従前の例によると定められている。ここに「従前の例による」との文言は、自然公園法附則7におけるのと同様の趣旨に理解すべきであるから、審査指針の不遡及の原則を明確にした規定である。したがって、審査指針の施行日に現に着手しているものについては、露天掘の原則的不許可を定めた審査指針は適用されず、留意事項が適用される。

原告は、同年三月三一日以前に国定公園である別紙物件目録記載六の土地(以下、「二三番一三の土地」という。なお、実測面積は五万八八〇六平方メートル)において土石を採取する許可を受けており、審査指針の施行当時現に土石採取に着手していた者であるから、同土地については審査指針第3IIaの規定は適用されないものである。ところが、本件裁定は、同土地についても審査指針の右規定を適用したから、行政法規不遡及の原則を定めた審査指針の規定に違背した違法がある。

(五) 審査指針第3IIaが仮に有効であるとしても、本件裁定は、右規定の解釈適用を誤ったものである。

審査指針第3IIaは、自然公園法の許可等を得て土石の採取が行われている土地に隣接する土地で土石を採取する場合にアないしエの要件が必要であると定めていることは明らかである。したがって、審査指針が施行された当時既に自然公園法の許可を受けていた採石業者が右許可を受けた土地に関して露天掘による土石の採取を行い得ることは右許可の当然の法律効果であり、その終掘に至るまで何年かかろうとも、採取すべき原石が存在する限り、行政庁がその中止を命令しうる根拠は全くない。審査指針の施行以前は自然公園内で採石業者が露天掘で土石を採取することは原則的に不許可とはされていなかったから、審査指針の施行以前に露天掘の採取許可を受けていた採石業者の既得権がこのように法律上保護されることは、正に法の理念に合致するところである。

原告は、昭和五〇年四月一日当時二三番一三の土地につき自然公園法による採石の許可を受けていたから、同土地については、審査指針の施行後何年経過しようとも、露天掘による採石も、当然に許可すべきである。

そして、右土地の隣接地であって初めて審査指針第3IIaアないしエの要件を充たすかどうかが問題となる。この場合、右アにいう必要最小限の始期は、原告が隣接地の許可申請をした平成七年四月一九日又は本件処分がされた同年七月二八日であり、その終期は右始期から右アの自然的、社会的、経済的条件にかんがみて、採取の期間及び規模が最小限と認められるだけの期間が経過した時と解すべきであり、必要最小限の規模であるかどうかは、現に平成八年八月二三日まで適法に採石業を行ってきた二三番一三の土地の規模を基準として決定すべきことは、右アの趣旨から明白である。なお、このように期間と規模が必要最小限に限定されているのは、拡大を一回に限り、隣接地の更に隣接地にまで採石地を拡大することを禁止する趣旨であることは明白であるから、原告が追加投資を繰返すことにより無制限に土石を採取できるというような事態は起こらない。

別紙物件目録記載二及び四の土地は、審査指針第3IIaただし書の隣接地に該当するが、原告は本件許可申請においてこれら土地の採取期間を一〇年と限定しており、これは現に採石許可を受けた二三番一三の土地の採取実施期間の三分の一以下の短い期間に止まり、しかもその面積は二三番一三の土地のそれと大差がない。また、本件許可申請による一〇年間の土石の総採取量は四〇六万二一〇〇立方メートルであり、これは後記西野建設株式会社(以下「西野建設」という。)及び柴砕石株式会社(以下「柴砕石」という。)の両社が採取する岩石量の一年間分にすぎず、極めて小規模である。したがって、右各土地における採石の期間及び規模は自然的、社会的諸条件からみて必要最小限のものであることが明らかであるから、本件許可申請は審査指針第3IIaに適合したものである。

(六) 細部の解釈及び運用方法は、審査指針に違反する。すなわち、審査指針は掘採又は採取の方法が「著しい」自然の改変を伴うものでないときは当然隣接地の露天掘を許容すべきものと定めているが、細部の解釈及び運用方法は、禁止の範囲を無制限に拡大し、露天掘採取を全面的に禁止しており、これは、原則を定めた基本通達である審査指針に反する。また、細部の解釈及び運用方法によれば、通常の採石方法、すなわち、採石法に基づいて資源エネルギー庁が指定している最新の採石技術指導基準書によって行う採石方法も禁止されることになるから、採石法も否定されることとなる。

知事は、民法の土地所有権制度の根本原則並びに原告が採石法に基づき地主から採石権の設定を受けて登記を受けている事実を全く無視し、露天掘は地形そのものを改変させるものであるから不許可にすべきであるとする違法な細部の解釈及び運用方法に従い、民法や採石法をその基本から否定して本件許可申請を不許可としたものであるところ、本件裁定もこの点を全く考慮しなかった違法がある。

(七) 本件裁定は、細部の解釈及び運用方法の解釈を誤ったものである。

細部の解釈及び運用方法には、「現に生業として継続されてきた土石の採取行為が即許可されなくなってしまう」との文言があるところ、本件裁定は右「即」という文言を「昭和五〇年四月一日から直ちに」という意味に解釈している。

しかし、細部の解釈及び運用方法はいわゆる個別通達であるから、通則通達である審査指針を前提として解釈すべきである。そこで、審査基準に第3IIaただし書が露天掘による採取等が自然公園法の許可を得て現に行われている土地に「隣接して」行われるものと特にことわっていることに照らすと、右「即」という文言は審査基準が発効した時点を指すものではなく、その発効時既に自然公園法に基づいて許可を得ていた土地の土石を取り尽くした時あるいは土石を取り尽くす終期の到来を予想してその土地に隣接して土石を採取するべき許可申請をした時直ちにということを意味することは明白である。換言すれば、「即」という言葉は、審査基準の施行当時既に許可を受けている業者が右許可のあった土地の採石行為が終掘に近づきその隣接地で採石行為を行おうとして採石の許可申請をした時点で直ちに隣接地の採取を許可しないことになれば生業として継続された採石業者の生活を脅かすことになるという趣旨で使用された言葉である。

ところが、被告及び知事は、細部の解釈及び運用方法の「即」という文言を審査基準の発効日であると解しているのは、独善的、恣意的な解釈であって、違法である。

(八) 知事は、昭和四八年三月以降一年間ごとに短期間の許可を繰返したうえ、右平成四年八月二八日、原告に土石採取を許可する際、平成五年五月三一日までに終息計画書を提出すべき旨の条件を付した。このように短期間の許可を繰り返したうえ、既に採石事業を行っている原告に対し一年にも満たない期限を付して終息計画書の提出を命ずることは、実質的には違法に廃業を強要するものであって、憲法一一条、一二条前段、一三条で保障された国民の自由と基本的人権を否定するものである。

また、自然公園法一九条は公園内の工作物の色彩を付近の自然に合わせた色彩にするというように風致又は景観を保護するために必要な限度で条件を付することを認めたにすぎないから、一年以内に同法一七条三項の対象となる行為の終息を命ずるような条件を付すことは、同法一七条三項、一九条の規定の趣旨及び自然公園法の立法趣旨に照らすと、明らかに違法であって、許容されないものである。

(九) 知事は、平成四年に西野建設に対して敷地面積一九万九五五五平方メートル、行為面積一五万六四九九平方メートルの土石採取の許可をし、柴砕石に対して敷地面積一九万八九八九平方メートル、行為面積一六万九二三一平方メートルの土石採取の許可をした。これによって、西野建設及び柴砕石の採石地は、いずれも審査指針の施行日に許可を受けていた土地の約二倍になった。ところが、本件許可申請による一〇年間の採取量は右両社の一年間の採取量にすぎないのに、本件処分は原告に対しては二三番一三の土地の隣接地について一切拡大を許可しないものであるから、同業者に対する処分と比較して著しく不公平であり、原告を不当に差別した違法な行政処分である。したがって、本件処分を是認した本件裁定も違法である。

(被告の主張)

(一) 原告の主張(一)ないし(三)について

自然公園法一七条三項は、同条一項が公園の風致を維持するために特別地域を指定することができるとしているのを受けて、その特別地域内における土石の採取等の行為につき許可制を定めたものであるから、その許否は、公園の風致に影響を及ぼすかどうかによって判断すべきである。

鉱物又は土石の採取が露天掘による場合は、その行為の性質上、その対象となる土地自体の形状を改変し、風致の維持に重大な支障を及ぼすおそれが強いといえるから、これを原則として不許可とすることには十分な合理性があり、自然公園法一七条一項、三項の趣旨に合致する。このような解釈の結果、仮に特別地域内における採石業者の土石採取行為のすべてあるいは大半が不許可となるとしても、これはそれが採石業者の行為であることに着目して不許可とするわけではないから、採石業者を差別することにはならないし、もとより採石業者の営業活動の自由とは関係がない。したがって、憲法一四条あるいは二二条に違反するものではない。

そして自然公園の風致を維持するために採石行為を不許可とし、そのために土地の所有権等の財産権が制約されるとしても、それは、公共の福祉のため財産権に内在する制約というべきであるから、憲法二九条に違反するものではない。また、自然公園法三条にも違反しない。

審査指針は、既に鉱業権が設定されている区域内での鉱物の採掘について露天掘以外の方法によることが著しく困難と認められるものである場合に露天掘を許可できるものとしながら、土石の採取についてはそのような例外を認めていないけれども、これは鉱物の土石の資源としての重要さの度合いの差に基づく合理的な区別であって、自然公園法の趣旨にも合致するところである。

(二) 原告の主張(五)ないし(七)について

審査指針は自然環境保全を強化する他の法令の制定等の社会情勢の変化に応じて、原則として露天掘による土石の採取を認めないことにするなど、従来の基準であった留意事項等に比べて規制の度合いを強め、自然公園法の本来の目的により適う運用をすることとした。しかし、審査指針が施行された当時現に許可を得て露天掘により土石を採取してきた行為者からの申請を、露天掘であるからといっていきなり許可しないこととすると、行為者等の生活を脅かすことになるから例外を認めたものである。したがって、このような例外的な取扱いは、適法に継続されてきた事業者の生業維持のための経過的な措置と解すべきであり、審査指針第3IIaアの「期間及び規模が必要最小限」とは、公園を指定した目的になっている風致の特性を壊さないこととか、採石業の社会的効用の程度、砕石に対する需要の程度だけでなく、行為者等の生活を脅かさないことをも勘案して決することになるが、行為者等の保護のために例外として認められる採石行為は、ある一定の期間を経過すれば、終了すべきものであり、また、隣接地であれば必ず必要最小限度の期間及び規模としてある期間と規模が認められると考えるべきではなく、極言すればそれらが零であることもありうると解すべきである。

細部の解釈及び運用方法は、自然公園法一七条三項等所定の各種行為毎に、その目的、方法、規模、態様等を勘案しつつ、他方で関係者の所有権、鉱業権、その他の財産権にも配慮し、公園内の風致景観の保護と国土の開発、保全その他公益との調整に留意して、基準を立てており、同法の目的及び趣旨に合致した妥当なものである。

採石法上の岩石採取計画の認可は、採石業を行おうとする者の災害防止能力に関する技術・施設等物的な面について、事業着手前に規制を行うための制度であり、自然公園法上の土石採取の許可は、自然の風景地の保護を図るための制度であって、両者は規制の趣旨、目的を異にする。したがって、採石法上の認可を受けうる採取計画であっても、これとは別個の観点から判断される自然公園法上の許可を当然に受けうることにはならない。

原告は二三番一三の土地については、審査指針施行前において土石採取の許可を得ていたから、終掘に至るまで許可を得ていたものと解すべきであるとか、あるいは審査指針にかかわらず、終掘に至るまで露天掘で岩石を採取する権利を有していたと主張する。しかし、原告主張の許可や認可には期限が付されていたのであるから、その期間が経過すれば、当該許可や認可が失効することはいうまでもない。

なお、自然公園法の許可は、公簿上の地番で画された土地につきなされるものでなく、具体的に採石を行う土地の範囲を特定して与えられるものであるから、同一地番内で行為地を拡大する場合であっても、審査指針第3IIaにいう「自然公園法の許可を得て現に行われている土地に隣接して行われるもの」に該当する。

(三) 原告の主張(九)について

西野建設や柴砕石の採石地の現況が、原告主張のように審査指針等の施行後における隣接地への採石の拡大を内容とする申請が許可されたことによる結果であると認めうる証拠はないから、原告の主張は理由がない。

2  争点1及び2について

(原告の主張)

本件許可申請にかかる土石の採取方法は著しく自然の改変を伴うものでなく、本件公園の風致に著しい支障を生じさせるものでないのに、被告は左記のとおり事実を誤認して著しい自然の改変を伴うものとし、かつ本件処分は知事が権限を濫用したものであるのに、これを看過して本件裁定をしたものであるから、本件裁定は違法であって、取り消されるべきである。

(一) 本件裁定は、本件申請区域の東南方に位置する岩湧山の山頂から見ると、本件公園の緑の山並みの中央に灰白色の岩盤がむき出しになっている部分が見え、この部分は高さ約一五〇メートルの急崖になっており、その右半分は藤原砕石興業株式会社(以下「藤原砕石」という。)の採石場跡地であり、左半分は本件申請区域のうちの現行区域及びこれまでに原告が採石を行ってきた国定公園外の部分であると認定している。

しかし、岩盤がむき出しになった灰白色の部分の上方は、北側から藤原節男と神倉亥佐男の共有である和泉市岡町四四三番九四、同番九三、次いで田中英一所有の同市岡町四四三番九二の土地であり、原告の採石地である同市岡町四四三番九〇の土地(別紙物件目録記載八の土地)ではない。そして、約一五〇メートルの急崖は本件公園の区域外である和泉市善正町にあり、藤原砕石が昭和五〇年ころ以前に山裾から透かし掘をして出現させたものであり、その西側の崖面は、平成八年六月二一日の大雨の際このような透かし掘に起因して同市岡町四四三番九二から土石が崩落して生じたものであって、原告の採石行為によって生じたものではない。

右のとおり灰白色の岩石がむき出しになっている部分は本件申請区域外であり、しかも本件公園外であるから、本件許可申請に対する許可処分が本件公園の風致を著しく害するかどうかとは無関係であって、右許可処分が風致に著しい支障を与えるという根拠にはなりえないものである。また、右部分は昭和五〇年以前の原告以外の同業者の土石採取によるものであるから、これを理由として、原告の本件申請の審査において既に本件公園の風致にかなりの支障が生じているというのは不当である。また、原告は透かし掘をしていないが、知事は平成八年六月二一日の崩落は原告が透かし掘をしてひき起こしたものと疑って、本件処分をし、本件裁定は知事のこのような不公正な差別扱いを正当としたものである。なお、岩湧山山頂付近からの展望を楽しむハイカーの多くは、右のような急崖も、本件公園内における林道の造成が招来した少なからぬ滑り崩壊と同視し、これを受容している。

審査指針等が施行された昭和五〇年四月一日以降全国の採石業者はほぼ透かし掘を止め、資源エネルギー庁が昭和四七年四月三日付けの採石技術指導基準書で定めた段階式採取方法に従うようになり、その後採石技術の進歩により採石技術指導基準書に改訂が加えられ、右階段式採取方法もその傾斜角度や平坦地の幅等が改善され、全体としてより適切なものに改められた。本件許可申請における原告の採取計画は、平成七年四月一九日現在の最新の採石技術指導基準書に従った採石計画であって、上部から階段式(ベンチカット工法)に採石するもので、採石跡地に岩盤をむき出しにした急な崖を生ずるものではなく、順序よく階段と平坦地が交互に重なりながら低地に降下するものであって、右階段式の山の傾斜は全体として従前より遥かに緩やかな傾斜角度になるだけのことであり、しかも、採石跡地は右採取計画による緑化が完成した段階では、ニュータウンの公園の様な整った地形の緑地となり、本件公園の一層の美化に役立つものである。

(二) 次に、本件裁定は、本件許可申請にかかる採石行為は尾根を消滅させて山稜線を改変させ大幅な地形の改変を伴うものと認定している。

しかし、右採石行為によって生ずる地形の改変の程度は、山稜線の改変を伴う程の大幅な地形の改変ではない。山稜線を消滅させたと評価できる程の大幅な地形の変更があったという場合、そこでいう山稜線は少なくともその地域を分ける標準となる程度の大きな山脈の尾根でなければならない。したがって、和泉市と河内長野市の市境となる滝畑ダムと東槙尾川の間の山並みの最高点を結ぶ尾根の線こそがその大きさからして正に山稜線というに相応しいものである。しかし、槙尾山は三国山から派生した山塊で、槙尾山そのものが和泉山脈の支脈にすぎず、その支脈が施福寺の北方で三方に分かれ、その内の一本がその東方でさらに支脈に分かれており、本件申請区域を走る尾根はこれら支脈の末端の尾根にすぎないから、本件土地にある尾根は単なる山のひだであり、山稜線ということはできない。

しかも、本件申請区域には、平水時に一・五メートル幅の川がないばかりか、平水時に水流のない涸れ川も存在しない。そこで、たとえ本件申請区域の南側に地面の凸部が存在しても、谷川がないのに右凸部を目して尾根とか山稜線ということはできない。ところが、西野建設は、音無川と青谷の間に存する山の尾根を全部削り取ったばかりか、右川より低い地点まで深掘して、両方の川を天井川にするまでに及んでいる。西野建設にはこのような採取を認めている知事が、原告に対しては平水時には水の流れない凹地に対応した凸部を尾根と称して採石を禁止する本件処分は、全く公平を欠き、行政権を濫用したものである。

(三) 本件裁定は、本件申請区域周辺のほ乳類、鳥類、昆虫の生息状況なども勘案すると、右地域には、全体としてみれば、依然としてかなりの自然が残されているとみることができ、本件許可申請を認めると、追加された区域の自然的な植生を破壊し、同区域及びその周辺の鳥獣類等の生息を脅かすおそれがあると認定している。

しかし、本件申請区域が鳥獣保護区域に指定されていることやほ乳類等の生息状況は本件公園の風致の維持と直接関連性がない。また、本件公園は約一万〇六三五ヘクタールに及ぶ広大な公園であり、他方本件申請区域は約六万〇八三一平方メートルで、その〇・〇五七パーセントにすぎないから、同区域が自然林から採石場に変わっても、ほ乳類等はその動物的本能により自らその場所を避けて本件公園内の適地を選んで生息を続けることは確実であって、右生物の保護に支障をきたすことはない。そのうえ、右区域が自然林であっても、これは従来の地主が人工林にしなかったという偶然の結果に基づいているにすぎず、しかもこの地域は自然公園法上第三種特別地域であって、地主が右土地の自然林を伐採して人工林にしても、知事はこれを禁止することができない場所である。

本件申請区域は極めて良質の花崗岩が産出する原石山であり、その岩石は土木建設事業者から供給を強く求められており、特に大阪府が中心になって進めている関西国際空港関連事業その他の公共事業に使用されてきたものであって、地域経済の振興、安定と社会資本の充実に多大の貢献をしている。本件許可申請の審査に当たってこのような面を考慮することは、自然公園法の適用に当たり国土の開発とその他の公益との調整をはかることを留意するように定める同法三条後段の趣旨に合致する。

したがって、原告が土石を採取することを動物の生息や自然林であるというだけの理由で阻止しようとするのは、行政権の濫用である。

(被告の主張)

本件裁定における、槙尾山町岡町四四三番八九及び同番九〇の土地が本件公園区域にある旨、及び高さ約一五〇メートルの急崖が原告の採石場内に存在する旨の認定は、実質的証拠に基づくものである。

当該地形を「尾根・山稜線」と称するか「山のひだ」と称するかは、本件の本質的な問題ではない。これを改変することにより本件公園の風致上著しい支障が生ずることは本件裁定に掲記した証拠により合理的に裏付けられており、右事実認定は実質的証拠に基づくものである。

3  争点3について

(原告)

原告は、左記の証拠はいずれも被告における裁定の審理に際して提出することができず、かつ、これを提出できなかったことについて過失がなかったとして、その申出をした。

《証拠略》

(被告)

(一) 《証拠略》は、いずれも本件処分の理由とされていない事実に関するものであって、本件において取り調べる必要のない証拠である。

(二) 《証拠略》は、同業者に対する許可処分に関するものであって、本件において取り調べる必要のない証拠である。

(三) 本件訴訟において原告が申し出た証拠は、いずれも本件裁定手続の当時既に存在していたものばかりであるから、本件裁定手続において提出できなかったとはいえないし、少なくとも提出できなかったことについて原告には過失があった。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  審査指針第3IIa及びこれに関する細部の解釈及び運用方法の定めは憲法二九条一項に違反し、もしくは営業活動の自由を奪うものであるかどうか(原告の主張(一)及び(二)について)。

審査指針第3IIa及びこれに関する細部の解釈及び運用方法の定めは、行政庁が自然公園法一七条三項に基づく許可をするに当たり解釈・運用の指針を定めたものにすぎず、国民の権利義務に関する抽象的な法規範を定立したものではないから、その合憲性は直接司法判断の対象とならないというべきである。

もっとも、本件処分の内容は審査指針第3IIa及びこれに関する細部の解釈及び運用方法の定めに則ったものであるところ、本件裁定はこのような本件処分を適法としているから、本件裁定の右判断が憲法に違反するかどうかを判断する過程で審査指針等の内容の当否が問題になる余地はある。そこで、以下、本件裁定が憲法二九条一項に違反し、もしくは原告の営業活動の自由を奪うものであるかどうかを検討する。

自然公園法は、すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もって、国民の保健、休養及び教化に資することを目的としており(一条)、このようにすぐれた自然の風景地を国立公園等の自然公園として指定することとし(二条、一〇条、四一条)、同法の適用に当たっては、自然環境保全法三条に定めるところによるほか、関係者の所有権、鉱業権その他の財産権を尊重するとともに、国土の開発その他の公益との調整に留意しなければならないものとされている(三条)。

そして、自然環境保全法は、自然公園法その他の自然環境の保全を目的とする法律と相まって、自然環境を保全することが特に必要な区域等の自然環境の適正な保全を総合的に推進することにより、広く国民が自然環境の恵沢を享受するとともに、将来の国民にこれを継承できるようにし、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とし(一条)、国、地方公共団体、事業者及び国民は、環境基本法三条から五条までに定める環境の保全についての基本理念に則り、自然環境の適正な保全が図られるように、それぞれの立場において努めなければならないものとされている(二条)。

このようにすぐれた自然の風景地を保護することは、広く国民が自然環境の恵沢を享受することを可能にし、国民の保健、休養及び教化に資するものであって、まさしく公共の福祉に当たるものである。

自然公園法一七条三項三号は、特別地域においては、鉱物を採掘し又は土石を採取する行為は環境庁長官又は都道府県知事の許可を受けなければならないと定めているが、これは自然公園の中でも特に保護の必要のあるすぐれた自然の風景地を特別地域とし、この地域においては、風致を害するおそれがある右のような行為を公共の福祉のために一般的に禁止し、特例的な場合に右一般的禁止を例外的に解除するもの、すなわち許可するものとしているのである。

そうすると、採石行為の中でも露天掘によるものは自然の外形自体を大規模に改変する可能性が大きいから、国定公園の中の特別地域である本件申請区域について、採石権者につき露天掘による採石行為を原則として許可しないこととしても、公共の福祉による制限として、憲法二九条に違反しないものというべきであり、また、営業活動の自由も公共の福祉に反しない限りにおいて保障されるのであるから、採石業者の営業活動の自由を奪うものとはいえないというべきである。したがって、本件裁定には憲法二二条、二九条一項等の解釈・適用を誤った違法はない。

なお、審査指針第3IIa及びこれに関する細部の解釈及び運用方法の定めは、鉱物又は土石の採取につき、その方法、規模、態様、地域等を勘案しつつ、関係者の所有権や採石権等の財産権も配慮し、公園内の風致景観の保護と国土の開発、保全等との調整に留意して許可の具体的基準を設けたものであり、自然公園法の趣旨に関する前記説示に照らしても合理性を有するものと認められ、憲法の右規定及び自然公園法の趣旨に反するものでないことは、明らかである。

2  審査指針並びに細部の解釈及び運用方法は、憲法一四条に違反するかどうか(原告の主張(三)について)。

審査指針並びに細部の解釈及び運用方法それ自体は、前記のように司法審査の対象とならない。もっとも、審査指針第3IId及び細部の解釈及び運用方法58は、鉱業権の対象となる鉱物については、それが鉱物が地表近くに存在する場合等であって、露天掘以外の方法で掘採することが露天掘で掘採する方法に比して技術的、経済的に著しく不合理である場合には、鉱業権を有する鉱山業者に露天掘で鉱石を採取することを許容しているから、知事が右審査指針等に則って許可をすることにより、同じ条件下で鉱業権者については露天掘りを許可しながら、採石業者については露天掘りを許可しない場合が生じうる。しかし、右のような差異は、鉱業法三条に定める鉱物と採石法二条に定める岩石が社会的・経済的に占める重要度の差異に基づくものであるから、鉱山業者と採石業者に対する右のような差別は一般社会観念上合理的な根拠があるものということができる。そして、憲法一四条はこのような合理的な根拠がある差別までも禁止するものではないから、仮に知事が右審査指針に則って処分をしても、これによって採石業者につき、自然公園法の適用上の平等が否定されたものとはいえない。したがって、本件裁定には憲法一四条の解釈・適用を誤った違法はない。なお、審査指針第3IIa並びにこれに関する細部の解釈及び運用方法の定めが合理性を有することは、前記1に説示したとおりである。

3  法律不遡及の原則違背の有無(原告の主張(四)について)

審査指針並びに細部の解釈及び運用方法は、前記のように法規の解釈・運用の指針を定めたものにすぎず、法規範を定立したものではないから、これらについて法律不遡及の原則の適用を論ずる余地はない。

ちなみに、知事が本件許可申請につき審査指針並びに細部の解釈及び運用方法に則って許可するかどうかを決定するとしても、この場合、審査指針並びに細部の解釈及び運用方法の施行後である平成七年四月一九日になされた本件申請について、改めてこれを許可するかどうかを決定するものであるから、右は既に許可により発生・取得している原告の権利を後に至って解釈より制限するものでないことは明らかである。

4  本件裁定は審査指針第3IIaの解釈を誤ったものであるかどうか(原告の主張(五)について)

前記のように審査指針は自然公園法一七条三項の解釈・運用の指針を定めたものにすぎず、法規範を定立したものではないから、仮に本件裁定が審査指針第3IIaの解釈を誤ったとしても、これによって直ちに本件裁定が違法になるものではない。したがって、審査指針第3IIaの解釈を誤ったことにより本件裁定が違法になるとの原告の主張は、それ自体失当である。

ちなみに、原告が自然公園法に基づく土石の採取の許可を一年ごとに与えられていたことは、原告の自認するところであり、したがって、右許可により露天掘を行いうるのは、右許可が効力を有する当該年度内に限られることは明らかであって、原告が一度許可が与えられた以上、当該土地についてはその後何年に及ぼうともその終掘に至るまで露天掘を継続するような権利を有するものではないことは多言を要しない。さらに、土石の採取の規模が審査指針第3IIaアの「掘採又は採取の規模が必要最小限と認められるもの」に当たるかどうかは、単に同業者との比較によって決定すべきではなく、当該地域の自然的条件や当該事業の開始以来の経緯を含めた社会的経済的諸条件等を総合的に勘案して決定すべきものであるから、西野建設等同業者の採取量との比較だけを理由として、本件申請を許可すべきであるという原告の主張は、失当である。

5  細部の解釈及び運用方法は審査指針に違反するかどうか(原告の主張(六)について)。

審査指針並びに細部の解釈及び運用方法は、前記のように法規の解釈・運用の指針を定めたものにすぎず、法規範を定立したものではないから、細部の解釈及び運用方法が審査指針に違反するかどうかは、直接司法審査の対象になるものではない。なお、細部の解釈及び運用方法の「審査指針においては、地形そのものを改変させてしまう露天掘による土石の採取は原則として許可されないこととなっている。」との部分は、その文言に照らしても、審査指針とは別個の許可の指針を定めたものではなく、審査指針の解説をしたものにすぎないことは明らかであり、また、審査指針第3IIは、露天掘りの禁止を基本方針として冒頭に掲げ、そのaは、土石の採取を許可する場合について、「掘採又は採取が著しい自然の改変を伴うものでないこと」という要件のみならず、「自然的、社会経済的諸条件にかんがみ、掘採又は採取の期間及び規模が必要最小限と認められるものであること」等の厳しい要件を課しているのであるから、右部分の審査指針の解説が不適切であるということはできない。なお、いうまでもないことであるが、右規制は特別地域内での採石のみを対象とし、採石そのものを一般的に否定するものではないから、採石法の趣旨と矛盾するものではない。

6  本件裁定は細部の解釈及び運用方法の解釈を誤った違法があるかどうか(原告の主張(七)について)。

細部の解釈及び運用方法は、前記のように審査指針の解釈・運用の指針を定めたものにすぎず、法規範を定立したものではないから、仮に本件裁定が細部の解釈及び運用方法の解釈を誤ったとしても、これによって直ちに本件裁定が違法になるものではない。したがって、細部の解釈及び運用方法の解釈を誤ったことにより本件裁定が違法になるとの原告の主張は、それ自体失当である。

ちなみに、細部の解釈及び運用方法の「生業として継続されてきた土石の採取行為が即許可されなくなってしまうのは当該行為者の生活をおびやかすことになり適当でない。」との部分は、審査指針の解説をしたにすぎず、「即」という文言は「審査指針の施行時に近接した時期に」ということを意味することは、全体の文意から明らかである。

7  本件処分が憲法一一条、一二条前段、一三条及び自然公園法に違反するかどうか(原告の主張(八)について)。

原告は、要するに短期間の許可を繰返したうえ、一年にも満たない期限を付して終息計画書の提出を命ずることは、実質的には違法に廃業を強いるものであって、憲法一一条、一二条前段、一三条に違反し、また、一年以内に自然公園法一七条三項の対象となる行為の終息を命ずるような条件を付すことは、同法の趣旨に反して違法であると主張するが、従来一年ごとに許可がなされてきたこと及び終息計画書の提出が命じられたことは、本件許可申請以前の別個の処分であって、本件処分の内容を成すものではない。したがって、これらの処分は本件処分あるいは本件裁定の合憲性あるいは合法性とは関係がないものである。

8  本件処分は他の同業者に対する処分と比較して不公平であるかどうか(原告の主張(九)について)。

自然公園法一七条三項による土石の採石の許可申請がなされた場合、行政庁としては、同法の趣旨に照らして右申請を許可すべきでないときは、これを不許可とすべきである。その上、審査指針等施行後の本件申請区域周辺の特別地域における採石許可の経緯はともかく、本件処分に近接した時期の許可処分において原告が西野建設及び柴砕石に比して不利益な取り扱いを受けたことは、原告がその取調べを申し出た証拠によっても明らかでないのであるから、本件許可申請を不許可にすべき理由がある以上、単に他の同業者に対する許可面積の比較だけから、本件処分が違法であるということはできない。したがって、本件処分は原告を他の同業者と不当に差別した違法があるとの原告の主張は、採用することができない。

二  争点1及び2について

(一)  高さ約一五〇メートルの急崖の位置について

本件裁定は、岩湧山の山頂から北西方向を望むと、本件公園内の緑の山並の中央に高さ約一五〇メートルの急崖が見え、その左半分は本件申請区域のうちの現行区域及びこれ迄に原告が採石を行ってきた本件公園外の部分であり、その左方に追加区域があると認定しているところ、本件裁定の審理手続において取り調べられた《証拠略》によれば、右事実が認められる。すなわち、右認定事実については、実質的な証拠があるから、裁判所は右認定事実に拘束され、これと異なる認定をすることは許されない。したがって、右急崖が本件公園外であり、本件公園の風致を著しく害するかどうかとは無関係である等の原告の主張は、採用することができない。

(二)  本件許可申請にかかる採石行為は尾根を消滅させて山稜線を改変させるものであるかどうか。

本件裁定は、本件許可申請にかかる採石行為は尾根を消滅させて山稜線を改変させるものであると認定しているところ、本件裁定の審理手続において取り調べられた《証拠略》によれば、右事実が認められる。なお、裁定手続において提出された証拠によっては、知事が西野建設に対しては尾根を削り取るような採石事業を許可しているとの原告の主張を認めるに足りない。したがって、右認定事実については、実質的な証拠があるから、本件許可申請にかかる採石行為は尾根を消滅させ山稜線を改変させるものではなく、本件処分は公平を欠き行政権の濫用であるとの原告の主張は、採用することはできない。

(三)  本件許可申請を認めると、追加区域の自然的な植生を破壊し、同区域及びその周辺の鳥獣類等の生息を脅かすおそれがあるかどうか。

本件裁定は、本件申請区域のうち追加区域は各種樹木類及び植物類が全域に生い茂り、自然林の様相を呈しており、また、本件申請区域を含む一体は、四季を通じて野生のほ乳類、野鳥及び昆虫類の種類が多く確認されており、本件申請区域のうち追加区域のほぼ全域は鳥獣保護区に指定されているから、本件許可申請の期間(一〇年間)、規模(行為面積約一三万平方メートル、岩石採取量約四〇六万立方メートル)、態様(火薬使用の露天掘)に照らすと、本件許可申請の採石行為を認めると追加区域の自然的な植生を破壊し、同区域及びその周辺の鳥獣類等の生息を脅かすおそれがあると認定しているところ、本件裁定の審理手続において取り調べられた《証拠略》によれば、右事実が認められる。他方、裁定手続において提出された証拠によっては、本件許可申請を容れないことが地方経済の安定、振興や社会資本の充実を著しく損なうことを認めるに足りない。したがって、右認定事実については、実質的な証拠があるから、本件許可申請にかかる採石行為によって自然的な植生を破壊し鳥獣類等の生息を脅かすおそれはなく、これを理由とする本件処分は行政権の濫用であるとの原告の主張は、採用することはできない。

三  争点3について

原告が本訴訟において申出をした甲号証及び検甲号証は、いずれも左記のようなその作成時期、内容に照らすと、新しい証拠として取り調べる必要がないか、又は原告が裁定段階の審理手続において提出することができなかったとは認められないものであり、また、原告代表者の尋問も左記のとおり新しい証拠として取り調べる必要がないものである。

(一)  新たに証拠として取り調べる必要がないもの。

《証拠略》

(二)  原告が被告における本件裁定の審理手続において提出することができなかったと認めることはできないもの。

《証拠略》

(三)  原告代表者の尋問の立証事項は、甲号証及び検甲号証を本件裁定の審理手続で提出できず、かつ提出できなかったことにつき過失がなかったことであるが、右事実の有無は各甲号証及び検甲号証の作成時期や内容から明らかであって、原告代表者を尋問するまでの必要は認められない。

第四結論

よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加茂紀久男 裁判官 大喜多啓光 裁判官 合田かつ子)

別紙 物件目録〈省略〉

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